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血の轍のあらすじと魅力紹介~抜群の画力で描かれる毒親の恐怖

『血の轍』は毒親(自分勝手な価値観で子供を支配しようとする親のこと)をテーマにしたサイコ・サスペンスです。平凡な家庭に暮らしていたはずの少年が徐々に精神の均衡を失って行く母親に支配され始める恐怖を、抜群の画力で描いた物語です。

血の轍のあらすじ

\ あらすじ /

 長部静一は中学2年生。サラリーマンの父親、専業主婦の母親と三人で暮らしています。
母親の静子は、中学生の母とは思えないくらい若々しい美人です。過保護で必要以上に静一にかまいたがるところがあります。
そんな母を少し疎ましく思いながらも、意中の女子と仲良くなれて喜んだりと、静一はありふれた中学生らしい毎日を送っていました。あるとき、一家は従兄弟のシゲルや他の親戚達とハイキングに出かけます。昼食の後、崖の上で静子が採ったある行動が、静一の平凡な日常にヒビを入れ、彼を狂気の日々へと誘うことになるのでした。

血の轍の魅力

魅力1 絵柄

本作の最大の魅力は作者、押見修造氏の圧倒的な画力です。

 

物語は主人公の母、静子が狂気に走っていくシーンに戦慄が走る

物語の第一話などは、とくに事件が起こるわけでもなく日常が淡々と続くだけになります。

 

、ですが、あまりに絵がすばらしいため退屈することなく読み進めることができます。

スクリーントーンは多用せず、ペンの斜線で陰を表現するシーンに、母親の静かな狂気の片鱗が空恐ろしく印象に残ります。

とにかく絵の上手さに打ちのめされたい、という読者にもお薦めできる作品です。

美しいからこそ恐ろしい母親

主人公の母、静子は作中の他の登場人物と比較しても、かなりレベルの高い美人として描かれています。派手な感じではなく素朴なのに綺麗と言ったデザインで、男女を問わず皆の心の中にある「理想の母親」のような容姿をしています。そんな理想の母親が子供を自分勝手に支配しようと動くからこそ、恐怖感がアップしているのです。

嵐の前の静けさの緊張感

この作品は母、静子が狂気に走るシーンももちろん恐ろしいのですが、狂気の前触れのようなシーンも同じくらい恐怖心を掻き立てられます。

とくに第一話ですが、若々しい美人の母として描かれいる静子が、ただ普通に喋ったり動いているだけなのに、不穏さがにじみ出るのです。「何もしていないのに怖い」シーンがあるというあまり類をみない漫画です。

 

地方都市の閉塞感

母親、静子が作中を覆う狂気の中心にいることは間違いありませんが、周辺の人々が普通かというとそうとも言い切れません。

元々、親戚付き合いに苦労していたことが静子の狂気を加速させる一因になったように、本作では娯楽の少ない地方都市で生きることの退屈さ、毎日決まった相手と顔を合わせるしかない親戚付き合いの面倒くささなども匂わせるような方法で描いています。

ひょっとして、この町の人間全員がおかしくなっているのでは……と思わされるところも恐ろしい部分です。

さいごに

人が環境にむしばまれる様を巧みに表現された「血の轍」

美人で恵まれてるように見える母親だけど、こんな母親のもとで育つのは恐ろしい……とりあえず読後しばらくは「肉まん」をみる度にこの作品を思い出しそうです。