『雪花の虎』は戦国武将、上杉謙信が女性であったという説を元にして描かれた歴史コミックです。
男性として育ち、自らを毘沙門天の化身と信じる少女「虎」が、稀代の名将・上杉謙信として名を成すまでを綴る伝記漫画です。
雪花の虎のあらすじ
\ あらすじ /
1529年、越後(現在の新潟県上越市)春日山城で、城主・長尾為景の子として一人の赤ん坊がこの世に生を受けました。
彼女の名は虎千代。母親が妊娠した際、軍神・毘沙門天がその身体を借りる夢を見たことから、為景はこの赤ん坊を男性として育てることを決意します。
父親の期待通り勇ましい性格の少女に育った虎千代は、後に上杉謙信と名乗り、戦国の世に覇を唱えることになるのでした。
雪花の虎の登場人物
長尾虎千代
女性として生を受けた今作の主人公。
後に上杉謙信と名乗ります。愛称は虎。
母親が毘沙門天の夢を見た直後に身ごもった子供であることから、軍神の生まれ変わりとして父親の期待を浴び、子供の頃から男性として育てられました。
成長後は、女性であることが判らないくらい勇ましい性格になります。
長尾晴景
虎千代の十八歳年上の兄。
頭脳明晰。でも武勇に秀でているわけでもなかったため、長尾家の跡取りではあるおのの、父・為景や春日山城内の人々からは後継者として不適格だと見なされていました。
戦争よりも詩吟を好む性格で、「男はしんどい」が口癖です。
長尾為景
虎千代の父であり、越後・春日山城の城主。
周辺国家との戦いにあけくれる毎日を送っていたため、戦乱の時代には強い後継者こそ必要と考え、長男の晴景より虎千代に期待を寄せています。
上杉謙信女性説をリアルに考証した歴史ストーリー
上杉謙信が実は女性だった、という説自体は歴史関係の書物などで語られることも多いメジャーなもの。
ですが、実際に謙信が女性だったと設定して、男兄弟がいたにも関わらず何故城主の座に就けられたのか、その際の障害はどのようなものだったか等、細かく設定を練り上げた作品は多くありません。
謙信の誕生から始まる本作は、彼女が男として育てられた事情を詳細に書いてくれるために、読者の頭の中に謙信=女性という設定が自然に植え付けられます。
読み進めるうちに、上杉謙信が男である方がおかしいような気持ちになってくるくらいです。
わかりやすい時代背景説明
戦国時代を舞台にした歴史漫画の場合、「これくらい、歴史が好きな読者なら判っているだろう」と舞台背景等の説明を省略してしまうこともありますが、本作では謙信が住んでいた城の構造など、歴史に詳しくない読者にも理解しやすい図版をつけて詳細に説明してくれます。
歴史に疎いので戦国時代物はちょっと……という読者にもお薦めできる親切な作品です。
さらには小難しい歴史ものは読む気もしない方向けに、ワープゾーンまであり。
込み入った日本史の話しが続くページの下半分のスペースで、東村アキコ先生が面白可笑しくともに時を過ごしてくれ、ここは知っておかなきゃというポイントで、流れるように本編に戻してくれます。
歴史に疎い読者も見捨てることなく楽しませてくれる先生。さすがです。
戦国時代を舞台にしたジェンダー・フェミニズム論
性別は女性でありながら男性として育てられた虎千代。
城主の嫡男でありながら「男はしんどい」と呟き、戦いを好まない晴景。
この物語は戦国時代が舞台でありながら、ジェンダー論(性別に押し付けられた役割、偏見を論じる学問)的な要素も含んだ作品になっており、押し付けがましいものではなく、無理のない形で男・女という枠組みの曖昧さについて考えさせてくれる、現代的な視点も持っている物語です。
さいごに
戦国物といっても東村アキコ劇場がさく裂していて、虎さまと家臣たち登場人物の掛け合いはわかりやすくノリがいいので、『海月姫』『東京タラレバ娘』といった人気作を楽しんだ方ならきっと楽しめるはず。